SESの商流飛ばしはできる?高単価に近づく現実的な3つの戦略
SESで商流を飛ばしたいと感じるのは自然です。ただ、会社員のまま無理に飛ばすのは危険。本記事では商流の仕組み、違法性との違い、高単価に近づく現実的な戦略を整理します。
SESで働いていると、ふとこんな疑問を持つことがあります。
「自分はそれなりに動いているのに、なぜ給料はここまで上がりにくいんだろう」
「顧客が払っている単価と、自分の給与の差が大きすぎないか」
こうした違和感は、決してあなただけのものではありません。IT・情報サービス分野では、多重かつ不透明な請負関係が長く課題として扱われてきました。
ただし、ここで注意したいのが、「商流を飛ばせば全部解決する」と考えるのは危険だということです。
今の会社に所属したまま、間にいる会社を抜いて直接契約しようとする動きは、現実的ではありません。むしろ狙うべきなのは、無理に商流を飛ばすことではなく、商流を短くするか、より直接評価される立場に移ることです。
この記事では、SESの商流の仕組みを整理したうえで、年収や働き方を改善するための現実的な進め方を解説します。
SESで「商流を飛ばしたい」と感じるのは自然
SESエンジニアが商流を意識し始めるきっかけは、だいたい似ています。
- 顧客先では忙しいのに、年収が伸びない
- 自分の単価を知って、給与との差に驚く
- 現場で評価されても、自社の評価に反映されにくい
- 三次請け、四次請けのような深い商流で、将来が不安になる
特につらいのは、現場では必要とされている感覚があるのに、キャリアと報酬が積み上がっている実感が薄いことです。
SESそのものが悪いわけではありません。問題になりやすいのは、「どの商流にいるか」「どんな工程を任されているか」「誰から評価される立場か」です。
同じSESでも、一次請けに近い会社で上流工程まで経験できる人と、深い商流で作業だけ切り出される人では、数年後の市場価値にかなり差がつきます。
SESの商流とは?飛ばす前に知っておきたい基本
SESの現場では、案件が次のように流れることがあります。
エンド企業 → 元請け → 二次請け → 三次請け → あなたの所属会社 → あなた
この流れが長いほど、間に入る会社は増えます。すると、単純にお金の話だけでなく、次のような問題が起きやすくなります。
- 情報が遅れて伝わる
- 判断の理由が見えにくい
- 任される工程が狭くなる
- 顧客に近い経験が積みにくい
- 単価交渉の余地が小さくなる
中小企業庁のガイドラインでも、情報サービス・ソフトウェア産業では多重かつ不透明な請負関係が一般化しており、取引適正化が重要な課題とされています。
違法性と混同しやすいポイント
ここでよく誤解されるのが、「商流が深い = すべて違法」という理解です。
これは正確ではありません。商流が深いこと自体が、直ちに違法というわけではありません。
一方で、契約は請負や準委任なのに、実態として客先が受託側のエンジニアへ直接指揮命令している場合は、偽装請負の問題になり得ます。厚生労働省も、請負・委任(準委任を含む)であっても、実態として派遣であれば違法だと示しています。
参考
偽装請負について
「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37 号告示)に関する疑義応答集(第3集)
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集
つまり大事なのは、
「商流が深いかどうか」だけではなく、「契約と実態が合っているか」「その中で自分がどんな立場に置かれているか」です。
なお、古い記事で見かけることがある「特定派遣」はすでに廃止されており、労働者派遣事業は許可制に一本化されています。古い制度前提の情報は、そのまま信じない方が安全です。
「商流飛ばし」でよくある誤解
会社員のまま取引先と直接つながれば解決するわけではない
「今の客先に気に入られているから、そのまま個人で契約できないか」と考える人はいます。
気持ちは分かります。ですが、これは現実的な戦略とは言いにくいです。
なぜなら、今の案件はあなた個人ではなく、所属会社を通じて成立している取引だからです。そこを飛ばそうとすると、契約面や信頼関係の面でトラブルになりやすく、今後のキャリアにとっても得策ではありません。
このテーマで本当に考えるべきなのは、今の取引先を抜くことではなく、次の環境でより浅い商流・より高い期待値のポジションに移ることです。
直請けでも高単価とは限らない
ここも大きな誤解です。
たしかに、間に入る会社が少ない方が、エンジニア側に残る金額は大きくなりやすいです。
ただ、直請け = 高単価ではありません。
たとえば、
- 顧客の予算自体が低い
- 任される業務が運用保守中心
- 責任範囲が狭い
- 代替しやすいポジション
この場合、商流が浅くても単価は伸びにくいです。
逆に、商流が1社入っていても、
- 要件整理に入れる
- 基本設計を任される
- 顧客折衝がある
- 改善提案まで求められる
このような案件なら、単価は上がりやすくなります。
単価を決めるのは、商流の深さだけではなく、任される範囲と期待される価値です。
本当に重要なのは「誰に、どこまで価値を出しているか」
受託開発や設計に近い現場で評価されやすいのは、単に手を動かせる人より、曖昧な要件を整理し、影響範囲を考え、関係者の認識を合わせられる人です。
現場では、
「実装ができるか」だけでなく、
「何をつくるべきかを詰められるか」
「トラブルの火種を早めに見つけられるか」
「顧客や社内に伝わる形で説明できるか」
まで見られます。
高単価を目指すなら、商流を飛ばす発想だけでなく、直接評価される仕事に寄せる発想が欠かせません。
高単価に近づく現実的な3つの戦略
1. 商流が浅いSES・SIerへ移る
いちばん現実的で、再現性が高い選択肢です。
今すぐフリーランスになるのは不安でも、一次請けに近い会社や、エンドとの直接取引が多い会社へ移るだけで、状況はかなり変わります。
このルートのメリットは、会社員の安定を保ちながら、
- 顧客との距離が近い
- 上流工程に入りやすい
- チームで学べる
- 商流が浅くなりやすい
という環境を狙えることです。
特に、今が三次請け以降で、テスト・運用・監視中心になっている人ほど、まずはここが現実解になりやすいです。
向いている人
- まずは転職で環境を変えたい
- いきなり独立は不安
- 上流工程の経験を積みたい
注意が必要な人
- 会社名や「エンド直」の言葉だけで判断しがち
- 単価だけを見て、教育やフォロー体制を見ていない
2. 受託開発・自社開発・社内SEなどへキャリアをずらす
「そもそも常駐中心の働き方が合わない」と感じている人は、こちらも有力です。
商流の悩みが深い人の中には、単に報酬の問題だけでなく、
- 客先常駐そのものがしんどい
- 帰属意識を持ちにくい
- プロダクトや事業理解が浅くなりやすい
- スキルが点でしか積み上がらない
という悩みを抱えているケースがあります。
その場合は、無理にSES内で商流だけを浅くするより、受託開発・自社開発・社内SEなど、成果や責任範囲が見えやすい環境へ移る方が合うことがあります。
表面的には良さそうでも、注意したいのは「社内勤務なら何でもいい」と考えることです。
たとえば、保守運用だけで改善余地が少ない環境だと、商流の悩みは減っても市場価値が伸びにくいことがあります。
大事なのは、働く場所ではなく、何を任され、何が積み上がるかです。
3. フリーランスとして商流を短くする
報酬面だけで見ると、最もインパクトが出やすいのはこのルートです。
フリーランスになれば、会社員時代のような固定の所属マージンはなくなります。エージェント経由でも、商流を短くしやすい案件に出会える可能性があります。
ただし、ここは理想だけで選ばない方がいいです。
フリーランスになると、
- 案件が切れるリスク
- 単価交渉の責任
- 契約確認
- 請求や税務
- 次の案件探し
まで自分で背負うことになります。
一方で、フリーランス保護の制度は少しずつ整備されており、2024年11月1日に施行されたフリーランス法では、書面や電磁的方法での取引条件明示、報酬支払期日の設定と支払いなどのルールが設けられました。
ただ、制度が整ってきたからといって、案件の質や継続性まで保証されるわけではありません。
向いている人
- すでに一定の実務実績がある
- 自分で責任を持って動ける
- 技術以外の管理も苦になりにくい
まだ早い人
- 現場での再現性ある強みが曖昧
- 指示待ちになりやすい
- スキルシートが作業列挙のまま
※制度・サービス内容は最新情報を要確認
高単価を実現しやすい人の共通点
評価されやすい経験
転職市場で評価されやすいのは、次のような経験です。
- 要件の整理や仕様確認に入った経験
- 基本設計、詳細設計の経験
- 顧客や他部署との調整経験
- 障害対応で原因切り分けまで行った経験
- 改善提案を出し、実際に反映された経験
- 進捗管理や課題管理を担った経験
要するに、「ただ作業した」ではなく、「考えて前に進めた」経験です。
評価されにくい経験
逆に、次のような経験は、年数のわりに市場評価が伸びにくいことがあります。
- 手順通りの監視だけ
- テスト実行だけ
- 指示された改修だけ
- 顧客との接点がない
- なぜその作業をしているのか説明しにくい
もちろん、こうした仕事にも価値はあります。
ただし、高単価を狙う材料としては弱くなりやすいのが現実です。
受託開発や設計の現場で見られやすいポイント
現場感のある話をすると、評価は「使える技術名の数」だけでは決まりません。
見られやすいのは、たとえば次のような点です。
- 影響範囲を自分で考えられるか
- 認識ズレを早めに見つけられるか
- 不明点を放置せず、整理して聞けるか
- 相手に合わせて説明の粒度を変えられるか
- 問題が起きたときに、責任転嫁ではなく整理して前へ進められるか
このあたりができる人は、商流が浅い案件や上流寄りのポジションでも評価されやすくなります。
失敗しやすいパターンと注意点
単価だけで案件を選ぶ
高単価案件に見えても、
- 炎上案件の火消し
- 丸投げ前提
- 1人常駐
- 引き継ぎ不足
のようなケースは普通にあります。
単価は大事ですが、単価が高い理由まで確認しないと危険です。
「エンド直」「高還元」の言葉だけで判断する
ここもよくある失敗です。
たしかに魅力的な言葉ですが、実際には、
- エンド直でも予算が低い
- 高還元でも待機時の扱いが厳しい
- 還元率の計算根拠が分かりにくい
- 商流は浅いが、工程は下流固定
ということがあります。
良さそうに見える言葉ほど、定義を確認するのが大切です。
スキルシートが作業列挙のまま
転職や独立で詰まりやすい人の多くは、ここが弱いです。
「Javaを使いました」
「テストを担当しました」
だけでは、単価は上がりません。
伝えるべきは、
- 何の課題があったか
- 自分はどこを担当したか
- 何を工夫したか
- 結果どうなったか
です。
高単価を狙うなら、作業者の書き方から、価値提供者の書き方へ変える必要があります。
転職・独立前に今すぐやるべき準備
職務経歴書・スキルシートを成果ベースで書き直す
まずやるべきは、実績の棚卸しです。
書く順番は、次の形がおすすめです。
- 参画案件の概要
- 自分の担当範囲
- 使用技術
- 工夫した点
- 成果や改善効果
たとえば、
- 問い合わせ対応を月○件処理した
- リリース手順を整理し、作業ミスを減らした
- 障害切り分けの初動時間を短縮した
- 仕様の認識ズレを早期に見つけ、手戻りを防いだ
のように、できるだけ成果が伝わる言い方に変えていきます。
求人票・案件票で確認すべき項目
面談や求人票では、次の点を確認すると判断しやすくなります。
- エンド直・一次請け案件の比率
- 商流は何次までが多いか
- どの工程が中心か
- 顧客折衝の機会があるか
- チーム参画か、単独参画か
- 単価や評価の考え方はどうなっているか
- 常駐比率、リモート比率
- 待機時の扱い
特に、「どの工程を任せる前提なのか」はかなり重要です。
商流が浅くても、下流固定ならキャリア改善は限定的です。
逆に、少し商流が入っていても、要件整理や設計に入れるなら、次につながる経験になることがあります。
転職市場での伝え方を変える
面接で「商流を飛ばしたいです」とそのまま言うのは、あまり得策ではありません。
それよりも、こう言い換えた方が伝わりやすいです。
- より顧客に近い立場で、要件整理から関わりたい
- 作業だけでなく、設計や改善提案まで担える環境に移りたい
- 今後は、より責任範囲の広い案件で市場価値を高めたい
この伝え方なら、単なる不満ではなく、キャリアの方向性として前向きに伝わります。
まとめ|狙うべきは「無理に飛ばすこと」ではなく「直接評価される位置へ移ること」
SESで働いていると、「商流を飛ばしたい」と感じるのは自然です。
実際、IT業界では多重で不透明な取引構造が課題になってきました。
ただ、会社員のまま無理に飛ばそうとするのは、現実的ではありません。
本当に考えるべきなのは、次の3つです。
- 商流が浅い会社へ移る
- SES以外の働き方へずらす
- フリーランスとして商流を短くする
そして、その前提として必要なのが、自分が高単価に見合う経験を積めているかを整理することです。
単価は、単に技術名の数ではなく、
どこまで任されてきたか
誰に対して価値を出してきたか
再現性のある強みを説明できるか
で決まります。
今の環境に違和感があるなら、まずは感情だけで動かず、
「自分は次にどの位置へ移るべきか」を整理するところから始めてみてください。