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SESエンジニアのための残業拒否マニュアル:法的根拠と客先で円満に断る方法

SESで残業が多いエンジニアへ。残業を拒否する法的根拠(36協定)と、客先でトラブルなく断るための具体的な交渉術、証拠の集め方を解説。不当な労働環境から自分を守る方法を学べます。

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はじめに:SESエンジニアの残業問題はなぜ起きるのか

「毎日遅くまで働いているのに、なぜか残業代が少ない」「客先から帰りにくい雰囲気を出されて、断れない」

SES(System Engineering Service)エンジニアとして働くあなたは、このような悩みを抱えていないでしょうか。客先常駐という特殊な働き方では、労働時間や残業に関する問題が特に発生しやすく、心身の健康を損なうリスクがあります。

しかし、安心してください。残業は原則として義務ではありません。この記事では、SESエンジニアが残業を適切に拒否するための法的根拠と、客先で人間関係を悪化させずに円満に断る具体的な交渉術を徹底的に解説します。自分の権利を知り、健康的な働き方を取り戻しましょう。

SES特有の「指揮命令系統のねじれ」とは

SES契約において、エンジニアの労働契約を結んでいるのは所属企業(自社)です。しかし、実際に業務の指示を出すのは客先の上長や担当者であることがほとんどです。

この「雇用主と指示を出す人が違う」という構造が、残業問題の温床となります。

  • 自社:残業代を払いたくないため、残業を減らすよう指示する。
  • 客先:納期優先で、自社エンジニアに対して直接的な残業を指示・強要する。

このねじれによって、エンジニアは板挟みになり、客先からのプレッシャーでやむなくサービス残業をしてしまうケースが後を絶ちません。

残業が常態化するエンジニアが抱えるリスク

残業が常態化すると、単にプライベートの時間がなくなるだけでなく、キャリアと健康の両面で深刻なリスクを負います。

  1. 健康被害のリスク:過労死ラインとされる月80時間を超える残業は、うつ病や心臓疾患などの原因になります。
  2. スキルアップの停滞:新しい技術を学ぶ時間や自己投資の時間が確保できず、結果として市場価値が低下します。
  3. 残業代未払いのリスク:労働時間が不透明になり、サービス残業(不払い残業)が黙認されやすくなります。

残業を拒否できる法的根拠(知っておくべき労働基準法)

残業を拒否するためには、感情論ではなく、明確な法的根拠を持つことが最強の武器となります。日本の労働基準法(労基法)は、労働者の健康と生活を守るために存在しています。

原則:残業は義務ではない(労働契約の確認)

労働基準法では、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて働くことを「時間外労働(残業)」と定義しています。この時間外労働をさせるためには、以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。

  1. 労働契約や就業規則に、残業の可能性がある旨が明記されていること。
  2. 労働組合または労働者の過半数を代表する者と「36協定」が締結されていること。

これらの条件が満たされていない場合、残業指示は違法であり、あなたは残業を拒否できます。

残業の根拠となる「36協定」の基礎知識

36協定(さぶろくきょうてい)とは、時間外労働や休日労働を可能にするために、労使間で締結し、労働基準監督署に届け出る協定です。

重要なのは、この協定が結ばれていたとしても、残業には厳格な上限があることです。

区分

上限時間(原則)

特別条項を締結した場合

月間

45時間

100時間未満

年間

360時間

720時間

もしあなたの残業時間がこれらの上限を超えている場合、それは労基法違反の疑いが濃厚です。また、特別条項を適用するには、臨時的で特別な事情がある場合に限られます。慢性的な人手不足や納期遅れは「特別な事情」には該当しません。

違法な残業指示を見抜くチェックリスト

以下のいずれかに該当する場合、残業指示は不当である可能性が高いです。

  • 36協定が締結・届出されていない:そもそも残業させる法的根拠がない。
  • 残業時間が上限(月45時間など)を超過している:原則的な上限を超えている。
  • 健康上または家庭の事情がある:育児や介護、病気療養など、正当な理由がある場合は拒否権が認められる。
  • 残業代が支払われない(サービス残業を強要されている):賃金不払いは明確な法律違反です。

【ケース別】客先常駐で残業を「円満に」断る具体的な方法

SESエンジニアが最も悩むのは、「自社の上司」と「客先の担当者」のどちらに、どのように断るかという点です。感情的にならず、論理的に、第三者(自社の責任者)を巻き込みながら対応することが重要です。

ケース1:上司(自社の人間)からの残業指示を断る方法

自社の上司は、あなたの就業規則や健康状態を把握しているはずです。以下の手順で対応しましょう。

  1. 就業規則の確認:まず、あなたの会社の就業規則に「残業を命じられた場合の対応」がどう記載されているか確認します。
  2. 健康上の理由を盾にする:「最近、体調が優れず、これ以上の残業は業務効率の低下と健康被害に繋がるため、本日は定時で上がらせていただきます」と伝える。
  3. 36協定の上限を持ち出す:「今月の残業時間が〇〇時間(上限に近い具体的な数字)に達しているため、労務管理上、これ以上は難しいと判断しました」と冷静に伝える。

ケース2:顧客(客先)からの残業指示を断る方法

客先の担当者には、指揮命令権がないことを意識しつつ、あくまで「自社のルール」に基づいて断る姿勢を見せることが重要です。

客先に対して「ノー」を突きつけるのは勇気が要りますが、以下の交渉フレーズで自社を盾にしましょう。

断る際に使える「交渉フレーズ」と注意点

相手

交渉フレーズ

注意点

客先担当者

「申し訳ございません。当社の労務規定により、これ以上の残業は会社として認められておりません。業務の優先順位について、一度自社の担当者を通じてご相談させていただけますでしょうか。」

指揮命令権が客先にはないことを示唆しつつ、自社のルールを盾にする。感情的にならず、あくまで業務的な報告として伝える。

自社上司

「客先から〇〇の残業指示がありましたが、今月の残業時間上限に近づいているため、コンプライアンスの観点から対応が難しいです。客先への調整をお願いします。」

法的・コンプライアンスの言葉を使い、上司に責任を持って対応させる。

【最重要】指示系統を明確にする

客先から直接残業を指示された場合、必ず「この指示を自社の〇〇さん(営業担当など)に共有してもよろしいでしょうか?」と尋ねましょう。これにより、客先は「自社を通さずに指示を出すのは問題がある」と認識し、偽装請負のリスクを避けるために指示を引っ込める可能性が高まります。

残業拒否が難しい場合に検討すべき次のステップ

残業を拒否しても状況が改善しない場合や、不当な扱いを受ける恐れがある場合は、次のステップに進む必要があります。

証拠保全の重要性:何を記録すべきか

残業代請求や労働相談を行う際、最も重要になるのが「証拠」です。日頃から以下の情報を記録しておきましょう。

  • 労働時間の記録:出勤、退勤時刻(客先の入退室記録、PCのログイン・ログオフ時刻、メールの送信履歴など)を毎日詳細に記録する。
  • 残業指示の記録:誰から、いつ、どのような理由で残業を命じられたか。メールやチャットのスクリーンショットを保存する。
  • 就業規則・36協定:自社の就業規則や36協定の内容をコピーしておく。

「偽装請負」の可能性をチェックする

SES契約において、客先がエンジニアに対して直接的かつ具体的な業務指示を行うことは、労働者派遣法違反(偽装請負)にあたる可能性があります。

客先からの残業指示を拒否できない状況は、偽装請負の強い兆候です。偽装請負が認定されれば、労働環境の改善を強く要求できます。

偽装請負の判断基準となる行動(客先があなたに対して行っているか)

  • 業務の進め方、手順、スケジュールを客先が直接指示している。
  • 勤務時間や休憩時間を客先が管理している。
  • 客先の社員と同様に、人事評価や懲戒の対象となっている。

これらの行為があれば、あなたの契約は実質的に派遣契約、または違法な状態にあると考えられます。

残業代を適正に請求するための手順

未払いの残業代がある場合、証拠を基に会社に請求できます。請求の流れは以下の通りです。

  1. 証拠の収集:上記で述べた労働時間の記録などを揃える。
  2. 内容証明郵便で請求:会社に対し、未払い残業代の支払いを求める内容証明郵便を送付する。
  3. 労働基準監督署への相談:監督署に申告し、会社への指導を求める。
  4. 弁護士・労働組合への相談:交渉が難航する場合、専門家に依頼し、労働審判や訴訟を検討する。

よくある質問(FAQ)

Q. 残業を断ったら評価が下がるのが心配です。

A. 労働基準法を遵守した残業拒否によって、会社が不利益な人事評価を行うことは不当です。もし残業拒否を理由に不当な降格や減給が行われた場合、それはパワーハラスメントや不当労働行為にあたる可能性があります。証拠を記録し、すぐに労働組合や弁護士に相談してください。

Q. 待機期間中の学習は労働時間に含まれますか?

A. 待機期間中に会社から「資格取得のための学習」や「研修参加」を義務付けられている場合、それは労働時間に含まれます。なぜなら、その時間は実質的に会社の指揮命令下にあると見なされるからです。自宅待機であっても、会社の命令で拘束されている場合は、労働時間として残業代を請求できる可能性があります。

まとめ:健康とキャリアを守るために

SESエンジニアの残業問題は、多くの場合、雇用構造のひずみと法的知識の不足から生まれます。あなたの健康とキャリアを守るためにも、まずは「残業は原則義務ではない」という法的根拠を理解し、冷静かつ論理的に残業を拒否する交渉術を身につけてください。

もし、残業拒否が難しい、証拠集めが大変、あるいは残業代が適正に支払われていないと感じる場合は、一人で抱え込まず、労働問題に詳しい専門家(弁護士や労働組合など)に相談することが最も確実な解決策です。


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